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樹木

僕は立っている。

どれほどの年月をこの場所で過ごしてきたのだろうか。

いつしか数えることもやめてしまった。

辺りを見渡しても何もない。

ひたすらに白い世界である。

右人差し指を動かそうとするが、長い年月動かなかったせいかまるで動かない。

足はどうだろうか。まるで地面に強く根を張るがごとく動かない。

しかし、思考だけは働く。

 

無駄に働く頭の中で、自分は樹木になったのだと思った。

思えば僕は樹木のような人間に憧れた。

僕の樹木へのイメージはこうだ。

 

1、しっかり地面に根を張りどっしりと構えている力強いイメージ

2、大きな葉をつけ木陰を作り生物が拠り所とできる包容力の象徴

3、長い年月を同じ場所で過ごし来るもの拒まず去るもの追わず。孤独を恐れぬ存在

 

そうか、僕の夢が実現したのか。僕はそう思った。

しかし、なってみると退屈なものである。

白い世界でただ一本そびえ立つ樹木になったところで僕が憧れた樹木になれたと果たして言えるのだろうか。

本当に他に何も存在しない世界では僕のイメージする樹木は存在できないのではないか。

 

では、僕は何になったと言うのだ。

分からない。

樹木のような人間になりたかった。

しかし僕は今、樹木でもなければ人間でもない。

 

樹木のような人間になるにはどうしたらいいか。

僕は何かに祈るように目を閉じて深呼吸をした。

先に樹木になるべきか。それとも人間になるべきか。

 

僕は樹木が好きだ。でも僕自身が樹木になった時僕は樹木を好きでいられるのだろうか。分からなかった。

僕は今「樹木なのか人間なのか分からない何か」であり、その僕は樹木が好きという感情を持っている。

では、人間になることにしよう。そうすれば僕はこれからも樹木が好きでいられる可能性が高いだろう。

 

真っ白な床から生える足に視線を向ける。

この一歩が人間と樹木が繋ぐ偉大な一歩になるのである。

 

僕は歩き始めた。

白いこの世界に色を加えいつかまたここで樹木のような人間としてそびえ立つために。